2009年12月6日日曜日

ペダル公開講座を聞いてきました


 昨日は松本和将氏の「効果的なペダルのテクニック」公開講座を聞きに、カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」に行ってきました。メンバーそれぞれがペダリングの難しさを痛感していたので、氏の話を聞けることを非常に楽しみにしていました。講義は松本氏と調律師の方による、実演を交えた具体的な内容のものでした。

 以下、少し長いですがレポートです。



 講座はまずペダルの講義をする上で基本的な要素を多く含むショパン作曲の「幻想即興曲」の華麗な演奏から始まりました。

 お話は、最もよく使用する右のダンパーペダルから入りました。音はダンパーペダルを踏むことによって伸び、放すことによって切れるのですが、「踏む(ON)」「放す(OFF)」の間に無数に存在している段階が非常に大切です。ハーフペダル、という言葉であらわされる段階です。

 たとえば幻想即興曲のパデレフスキ版なのですが、全く記号通りに踏んでしまうと音が伸びすぎて平坦な演奏になってしまいます。かといって一小節ごとに踏むと濁りは少なくなるもののやっぱりのっぺらぼうになってしまいます。そこで余韻がちょっと残る感じのハーフペダルを細かく用いることによって変化のある演奏が生まれます。粒が聴こえるし、響きも残るハーフペダルをいかに用いるかというのがポイントになります。ハーフペダルとはいっても多くの段階があるのですが。。。粒がそのまま残る、粒がふくらむ、粒がふくらんで伸びる、など。クレッシェンドとともに踏み込む量も増やしていき、音を減らすときには指とともにペダルの踏み方も少なくします。

 続いて調律師さんが、ダンパーペダルの動きをピアノの中が見えるような形にして解説されました。右のダンパーペダルを踏むと→ペダルの後ろ側についている突き上げ棒が持ち上がり→ピアノの下側にあるペダルレバーを押し上げ→ピアノ内部のダンパーレールが持ち上がり→ダンパーワイヤの先についたダンパーヘッドが弦から離れ→弦が開放され、音が伸びます。ペダルをゆっくり踏んでいくとまず遊びの段階があり、その後少し抵抗を感じるポイントがあります。ダンパーヘッドについたフェルトが弦から少しだけ浮き、完全には離れていない段階がハーフペダルです。このダンパーフェルトが弦から完全に離れていない状態にも無数の段階があり、そういう微妙な段階を耳で聴きながらコントロールすることが大切だということです。そういった細かな調節をするために、松本氏の場合、ペダルは足の裏広い部分を使って踏むのではなく、指の関節をペダルの縁に沿わせて、指全体を使っているとのこと。。そして体の他の部分は力を抜きます。手の脱力とまったく同じ仕組みであり、どんなに足を動かしても鍵盤を弾く上半身には影響を与えないほど脱力させることが大切です。

 ハーフペダルの使用例として、悲愴の第1楽章も出されました。まず和音とともにペダルを踏んだあと、素早くハーフペダルの位置まで戻すことによってfpの効果を出しつつ、音の響きを保つことができます。上げていく度合いは2、3mmぐらいと微妙です。基本的に音を大きくしたいときはペダルも分厚く、音を小さくしたいときはペダルを薄くしますが、ペダルを踏む場合、高い音だと濁りづらく低い音だと濁りやすいです。ということで、ペダルを踏むときにはmmというように捉えるのではなく、どういう響きがほしいのか、ということから捉えていくことが大切で「耳でペダルを踏む」ような意識。
また、その他のダンパーペダルの方法として、休符の部分や、ある音のみペダルを使わないことで、その音や流れを逆に引き立てる効果を得ることもあるそうです。

 ピアノも変遷によってペダルの踏み方も変える必要があります。モーツァルトの場合はペダルを踏みこみすぎないことが大切で、どちらかといえば鋭く浅くです。フレーズの終りにちょっとペダルを用いることによって響きをやわらかくまろやかにすることができます。



 ダンパーペダルの説明後質疑応答がありました。ホール等で演奏する場合、演奏者自身が聴いている音と聴衆が聴いている音とはあきらかに違っています。だから自分が演奏しながら音を完全にチェックすることはできないというジレンマがあるのですが、その克服法として、ホールで実際に手を叩いてみたり人に聴いてもらったりして前もって響きをチェックしたり、演奏のときに大きな空間、すなわち客席にいるのにより近い状態で聴きやすいように、できるだけ顔をあげ目を見開き斜め前方にまで感じとることによって聴こえやすくすると良いと言われていました。

 また音を出す上で、足と手とどちらにウエイトを置いたらよいか、という質問もあったのですが、両方にウェイトを置くのが理想だとのことです。手と足もつながっているのです。自分の場合手だけでもせいっぱいなので、ウェイトは手から置くのだろうと思っていたのですが、それだけでは不十分なのですね。

 なお、ペダルを十分に踏み弦が開放された後は、原理的には音の伸びの変化はない、とのことです。



 休憩後、真ん中のソステヌートペダルと左のソフトペダルの解説がありました。ソステヌートペダルはあまり用いないのですが、音を濁らせずに引き立てるのに役立ちます。例としてラフマニノフの鐘の第7小節目の初めの部分を挙げられていました。左手のG(ソ)の音を響かせながらも他の音を濁らさないようにしたい。そのために、G(ソ)を弾いた直後で次の音を弾く前に素早くソステヌートペダルを踏みこみ、さらに次の音の響きを保つためにソステヌートの後でダンパーをすぐに踏むとのこと。もしも間違って、少しでも早くダンパーを踏んでしまったら…大濁りになっていまうので、タイミングが難しいとのことでした。

 左のソフトペダルを踏むと鍵盤が横にずれ、弦の叩く位置が微妙に変わり、完全に踏むと打弦する弦の本数が3本からおおよそ2本に変わります。そのため音色が変化し、柔らかな音色になります。ソフトペダルにも踏み具合に無数の段階があり、やはりダンパーペダルと同様に大切なのはイメージをちゃんと作っておくことと、踏んだ時の効果を確認すること。ソフトペダルを踏んでいる時こそ、音がぼやけすぎないように逆に鋭いタッチが必要となることも多いそうです。使用例としてドビュッシー作曲の月の光、モーツァルト作曲のソナタK.545第2楽章、ショパン作曲のバラード1番、ベートーヴェン作曲の熱情ソナタ第1楽章を挙げられていました。ショパンのバラードやベートーヴェンの熱情ソナタでは、ペダルを踏みながらも際立たせたいところはあげたり、踏むにしても細かく動きを作られていました。ソフトペダルでもやはり「耳ペダル」が大切のようです。また強い音のときにソフトペダルを用いる場合の例として、他の楽器を引き立てるための室内楽の例を挙げられていました。

 どちらのペダルにしても最も大切なのは「音」です。まず「音」ありき。聴きながら判断することが大切だということでした。

 限られた時間内で非常に盛りだくさんの説明をされました。実際に演奏に生かすのは大変そうですが、ペダルの捉え方に対する心構えを多く学んだような気がします。「音」を聴くことが最も大切だということ、そしてONとOFFの間にある無数のハーフ段階が大切なのだということも。

 最後に松本氏のダイナミックな英雄ポロネーズの演奏で本講座は幕を下ろしました。大変面白くてためになる講座でした。



 充実したお話を聴いた後、近くのお店でお茶しました。見学に来られた方ともお話しました。講座の内容ももちろんだったのですが、好きな曲、弾いていきたい曲、目標、取り組みたいことなど、思いや夢について話しました。ピアノへの熱き思いが伝わってきました。とても刺激になりました☆